近年栄養価の高い大麦がダイエットなども効果が期待されているなどの理由で注目されています。反対に小麦の危険性に関しても良く耳にしますが、どのような違いがあるのでしょうか?
大麦の特徴と小麦との違いに関して
麦は世界で一番多く作られている穀物です。
「麦」とつく食べ物は大麦以外に小麦やライ麦などがありますが、これらは全てイネ科の植物です。名前から「大麦は小麦よりも大きい麦」というイメージがあるかもしれませんが、この2つの麦の大きさはそれほど違いはありません。
では2つの大きな違いは何かというと「タンパク質」です。
小麦粉にはグリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質が含まれています。水を加えてこねると2つのタンパク質が絡み合い、粘りや弾力性のある「グルテン」に変わります。このグルテンのおかげでパンがもちもち、ふわふわになります。
一方、大麦のたんぱく質はホルデインと呼ばれ、粘りがないのでパンにしても膨れませんし、もちもちにもなりません。そのため大麦はパンではなくご飯として食べるのが一般的です。反対に小麦を炊飯器で炊いてみるとパサパサとなります。
そして現在小麦のグルテンの危険性を訴える声をよく耳にします。
小麦のグルテンの過剰摂取は
- 病気(リーキーガット症候群、アレルギーなど)
- 肥満
- 中毒性(パンやパスタなどが常に食べたくなる)
といった懸念があると主張する専門家もいます。実際に「グルテンフリーダイエット」が一時期流行ったように、健康やダイエットのために小麦製品を摂らない人も増えています。(グルテンよりもアメリカ産小麦の危険性を訴える人もいます)
大麦にもグルテンが含まれていますが、小麦とは種類が別で量も少なくアレルギー表示の義務はありません。小麦アレルギーの人で大麦ならば大丈夫な人もいますが、大麦でもアレルギー症状が出る人もいるので注意が必要です。
大麦に含まれている注目の栄養成分
大麦にはビタミン類はあまり含まれていませんがミネラルは多くの種類が含まれています。
大麦に含まれるミネラルの種類と働きや効果効能
種類 | 働き・効果・効能 |
---|---|
リン | カルシウムと結合して骨や歯をつくる |
鉄 | 赤血球のヘモグロビンの材料、貧血予防など |
カルシウム | 骨や歯の材料、精神の安定など |
カリウム | ナトリウムを排出、むくみ改善など |
マグネシウム | カルシウムの量を調節、ストレス抑制など |
銅 | 鉄を使いやすい形に変え、赤血球を合成する |
亜鉛 | 酵素の構成成分、細胞の新生や代謝に関わる |
現在はミネラル不足の人が多いです。体内に含まれる栄養成分のうち約4%しかミネラルは占めていませんが、他の栄養成分の潤滑油のような働きをします。
そのためタンパク質やビタミン、ポリフェノールなどを十分に摂取してもミネラルが不足すると体の隅々まで行き渡りません。
白米の中にはほとんどミネラルが含まれていないので、お米を炊く際に少し大麦を入れて白米とブレンドすることをおすすめします。
水溶性食物繊維
大麦の栄養成分で特に注目されているのは食物繊維で、大きく分けると水溶性と不溶性の2種類あります。
食物繊維は腸内環境を改善して便秘解消などの効果があると言われていますが、実は不溶性食物繊維の割合が高すぎると、便秘解消どころではありません。
逆にお腹がふくらんで苦しくなったり、腸に過剰な刺激が伝わることで腸のぜん動運動が抑制されて便がコロコロしたものになる場合があります。そのため食物繊維をたくさん摂れば良いというのではなく、バランス良く摂る必要があります。
不溶性と水溶性の理想的な摂取の割合は2:1です。水溶性の割合が高くなる分には全く問題ありません。
水溶性の食物繊維が多い食べ物は昆布やのり、ワカメなどの海藻類です。できれば毎日食べてもらいたいのですが、なかなか難しいですね。そこでおすすめなのが大麦です。
大麦は不溶性よりも水溶性食物繊維が多い数少ない食べ物です。では他の食べ物と比べてどれだけ違うのでしょうか?
食品中に含まれている不溶性・水溶性食物繊維の量
食品名 | 不溶性(g) | 水溶性(g) |
---|---|---|
大麦 | 3.6 | 6.5 |
ライ麦 | 8.2 | 4.7 |
小麦粉 | 1.3 | 1.2 |
玄米 | 2.3 | 0.7 |
白米 | 微量 | 0.5 |
ごぼう | 3.4 | 2.3 |
アボカド | 3.6 | 1.7 |
さつまいも | 1.8 | 0.5 |
アーモンド | 9.3 | 0.8 |
チアシード | 30.6 | 6.6 |
(可食部100gあたりの含有量)
表は食物繊維が多い食べ物を載せていますが、それらと比較しても、水溶性が不溶性より多いのは大麦だけです。
バランスが良いのはライ麦で、アーモンドやチアシードは食物繊維が多く含まれているものの、不溶性食物繊維の割合がかなり高いです。また食物繊維が多いイメージのさつまいもと比較しても大麦にかなり多く含まれているのがわかります。
注目の水溶性食物繊維のβ‐グルカン
このように大麦は水溶性食物繊維が多い食べ物ですが、単に含有量が多いというのではなく、水溶性食物繊維の種類が注目されています。それが「β-グルカン」です。
このβ-グルカンは多くの効果や効能が期待されている成分です。日本以外では欧米諸国やオーストラリア、ニュージーランド、韓国などの公的機関が機能性表示を認めています。
日本では2015年から機能性表示食品が販売されていますが、機能性表示食品とは
「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」など、特定の保健の
目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)という食品の機能性を表示する
ことができる食品です。
またβ-グルカンは
- 大腸の中間で効果を発揮
- 糖質の消化吸収を抑える
- セカンドミール効果
という特徴があります。
最初の食事(ファーストミール)が次の食事(セカンドミール)時まで影響が続くことです。例えば、朝食にβグルカンを含む食事をすると、次の食事まで血糖値の上昇を抑えてくれます。
難消化性デンプン(レジスタントスターチ)
大麦でもう一つ注目されている成分が難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)です。
レジスタントスターチとは「消化されにくい(レジスタント)でんぷん(スターチ)という意味で、冷やしたご飯などにも含まれています。
通常のでんぷんは小腸で消化・吸収され大腸まで届きにくいのですが、難消化性でんぷんは大腸の奥まで送り届けられます。これにより大腸に多いビフィズス菌などの善玉菌がこれを食べて全身の健康に影響する短鎖脂肪酸の産生を高めます。
短鎖脂肪酸が増えると大腸内が弱酸性化して善玉菌の住みやすい環境となり、反対に悪玉菌がすみにくくなります。その結果大腸の発がん物質である有害な毒素の産生も減ります。
このように大麦はβ-グルカンと難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)が注目されています。では大麦の種類によって栄養価は違うのでしょうか?
大麦の種類!押麦やもち麦の違いは?
大麦も米と同様にもち性とうるち性があります。もち性の大麦の代表は「もち麦」です。
うるち性の大麦は
- 押麦
- 丸麦
- 米粒麦
などがありますが、広く知られているのは押麦です。

うるち性の押麦ともち性のもち麦の違い
うるち性の押麦は冷めると少しパサつくという特徴がありますが、もち麦は冷めても硬くならずにもちもちの食感が続き、食べやすいのが特徴です。
特にもち麦をおにぎりにすると相性抜群でおすすめです。さらに、もち麦は押麦よりも食物繊維の量が約2割ほど多いです。もちろん押麦でもしっかりと食物繊維が摂れますが、それよりもさらに多いのがもち麦です。
大麦の期待される効果や効能
生活習慣病や大腸がんなどの予防
β-グルカンには多くの効果や効能が期待されており、日本や諸外国でも機能性表示が認められています。
β-グルカンの効果と機能性表示を認めている国
β-グルカンの効果 | 認めている国 |
---|---|
食後の血糖値を抑える | 日本、欧州 |
正常な腸機能の維持 | 日本、韓国 |
排便促進効果 | 欧州 |
心疾患のリスクが減る | 米国、カナダ、欧州 |
コレステロール値が低下 | 日本、欧州 |
※欧州はEFSA(欧州食品安全期間)のこと
食後の血糖値を抑えたり、コレステロール値が低下することで、糖尿病などの生活習慣病予防に効果が期待されています。また欧米では心疾患のリスクが減ると認められています。
心疾患とは心臓に十分な血液が行き渡らないため引き起こされる病気です。最悪の場合は生命にかかわることもある重大な病気となる可能性があります。それが虚血性心疾患である狭心症と心筋梗塞です。
難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)の効果
オーストラリアでは、肥満や大腸がん患者の増加が社会的な問題になっていました。一方、アフリカの先住民は大腸がん(結腸ガンや直腸ガン)のリスクが低い点に着目し、その原因究明を進めてきました。
その結果、外皮を取り除かずに穀物を加熱調理し、それを冷ましてから食することで、より多くの難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)が産生されている事が分かったのです。
この難消化性でんぷんが腸内フローラの善玉菌の栄養源となり、酪酸などの短鎖脂肪酸を産生し、腸内のpH値を下げて腸内環境を改善することをつきとめました。
そして腸内環境が改善して善玉菌が増えることで大腸がん(結腸がん・直腸がん)のリスクが軽減します。
その他にも
- インスリン抵抗性を改善する
- 血糖値を低下させる
- 腸機能の正常化
といった働きもあります。インスリン抵抗性とは、肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインスリンが正常に働かなくなった状態のことです。
インスリン抵抗性があると、血糖値が下がらずに糖尿病にかかりやすくなります。ですが、レジスタントスターチにより血糖値を低下させ、インスリン抵抗性も改善されるため糖尿病対策になります。
腸内環境改善・便秘改善
食物繊維は腸内で善玉菌のエサとなり、活発に活動することで腸内環境が改善され便通が良くなることは知っている人もいると思います。
特に水溶性食物繊維のβ-グルカンは機能性表示が認められていて、日本ではβ-グルカンが含まれている食品は消費者庁に届け出を出して許可をもらえれば、「正常な腸機能の維持」とパッケージに記載することが可能になります。
また難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)も便通改善効果が期待されています。通常のでんぷんは小腸で消化・吸収され大腸まで届きにくいのですが、難消化性でんぷんは大腸の奥まで送り届けられます。(食物繊維と同じ働きです)
すると大腸のビフィズス菌などの善玉菌がこれを食べて全身の健康に影響する短鎖脂肪酸の産生を高めてくれます。
短鎖脂肪酸が増えると大腸内が弱酸性化して善玉菌のすみやすい環境となり、反対に悪玉菌がすみにくくなります。その結果大腸の発がん物質である有害な毒素の産生も減ります。
日本人は食物繊維が不足ぎみ
腸内環境が改善すれば便秘が改善するだけでなく、免疫力アップがアップして病気になりにくい身体になりますが、日本人は食物繊維が不足ぎみと言われています。
食物繊維の1日の推奨目標量は
- 男性20g以上(18歳~69歳)
- 女性18g以上( 〃 )
※日本人の食事摂取基準(2015年版)
となっていますが、押麦には100g中に10~11gもの食物繊維を含んでいて、そのうち7~9gが水溶性食物繊維です。
もち麦であれば押麦よりも水溶性食物繊維が2割アップします。
慢性的な便秘に悩んでいる方はスーパー大麦を、便秘ではなくても、普段からあまり食物繊維を摂っていないと感じる方はもち麦を食べるようにしましょう。
ダイエット効果
大麦はダイエット効果もあります。白米7割、大麦3割のごはんを12週食べて腹囲や内臓脂肪面積がそれぞれ減少したデータがあります。
- β-グルカンは糖質の吸収を抑える
- レジスタントスターチは満腹感を持続させる
といったうれしいダイエット効果や短鎖脂肪酸を発生し、痩(や)せ菌を増やす働きもあります。
短鎖脂肪酸は痩せ菌のエサである食物繊維を食べて分解した時に発生し、脂肪細胞の脂肪を蓄える動きをブロックする働きや脂肪をつきにくくする
効果があります。
美肌効果
大麦には美肌効果もあります。便秘により体内に老廃物がたまると肌にも悪影響を及ぼし、ニキビや吹き出物が出やすくなります。ですが食物繊維が老廃物を体外に出すことで美肌効果につながります。
実際にスーパー大麦を1日12g以上、4週間食べた結果排便量が増加しただけでなく、肌荒れに関係するとされるフェノール類も減少したという実験結果が出ています。
まとめ
大麦の栄養価が高いのはわかっても、白米を止めて大麦にするというのは抵抗があると思います。まずは白米に大麦を混ぜて慣れてきたら徐々に割合を増やしていきましょう。
美容や健康、そしてダイエットのためにも大麦を毎日の食生活に取り入れてください。
